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オフィスの在り方が変わっていく中で、
オフィス家具メーカーは必要とされ続けるか(後編)
”イノベーション疲れ”の実情と対策とは?

はじめに

若原強(以下、若原):
前・中編では、このプロジェクトで「新しいオフィスづくり」としてなにを実現しようとしてきたのか、というWHATの話がメインでした。後編では観点を変えて、この取り組みを実際は社内でどのように進めてきたのか、というHOWに焦点を当て、大企業での新しい取り組みにつきものと言われる「イノベーション疲れ」について、実際どういうものだったのかを振り返ってみたいなと思います。

横手さんは、あらためてこの取り組みを振り返ると、どうだった?


横手綾美(以下、横手):
できた事もあるけれど、できなかった事も多かったなと感じます。2013年11月にキックオフされてから、2018年11月にアプリを一般公開するまで5年かかっているんですよね。思うように進まないからこそ考えさせられたことや、学んだことは多かったと思います。

今回のプロジェクトの成果は、最終的には「新サービス」くらいになりましたが、そもそもは新規事業としてスタートしたものでした。企業の中で新規事業を立上げようとする場合、社内各所から人が集められ、皆初めての状態でスタートするケースも少なくないと思います。最初はワクワクするしモチベーションも高いが、さまざまな障害があり、だんだん疲弊してくるケースはよくあると思うのです。


若原:
確かに、疲れたかどうかでいうと明らかに疲れたね(笑)。こういったことは何度も経験できるわけじゃないので、何がどうなって、なぜ疲れたのか、どうしたらもう少しスムーズに進められたのかはぜひ振り返ってみたい。
「新規事業をうまく生み出すための組織づくりやマネジメント」という、どちらかというと経営視点の話は世にたくさんあるけど、新規事業に携わる人たち全員に、常に理想的な環境が用意される訳ではないのも現実だよね。良くも悪くも与えられた環境の中で、あくまで会社に雇われながら新規取組みを任された現場担当者の立場として、現実的には何に留意してどうふるまうべきなのか、あらためて考えてみよう。


横手:
そうですね。今回の私達、担当者視点の経験談から、どんなハードルや落とし穴が発生しうるのかをイメージしてもらい、企業内でこれから新規事業立上げや新商材開発に携わる人の参考にしていただければと思います。


対談風景

プロジェクトの振り返りから「イノベーション疲れ」を紐解く

このプロジェクトの試行錯誤や紆余曲折を振り返ることで、「イノベーション疲れ」とは何なのか、その対策はあるのか、大きく5つにまとめてみたいと思います。

1. 話を基本的に理解してもらえず疲れる

(気づき)→新規事業としての評価・判断の目線をまず合わせる

若原:
このプロジェクトを振り返ってまず思うのは、費やした時間と労力の大部分は自社内に向けられていた、ってことだな。そもそも何をやりたいのかを理解してもらうことだけでも大変だった。

例えば、当時の社内ではそこまで重視されてなかった価値軸の提案。今でこそ「ホームライクなオフィス空間」等々の文脈で、雰囲気や居心地の良さというものが一つの価値として社内で市民権を得ているけど、当時多くの空間・商品企画は「働きやすさ」や「使いやすさ」という機能価値に判断の主軸が寄っていて、いわゆる感性価値を追求するような企画は、その意義自体賛同されにくかった。

また、当時の社内で主流だった売り方とは別の売り方の提案もそうだった。法人営業が対面訪問してオフィス提案のやり取りをするのが是とされていた中で、アプリを活用して提案の一部を自動化、PULLを生み出すという考え方は、総論として理解はできても、投資判断となると難しかったと思うんだよね。


横手:
そうですね。既存事業だと、基本的に過去の延長線上にあるという前提で、どこが変わったか、何を加えるのか、前例との比較から評価や判断を行うことが多いと思うんです。でも今回私たちがやろうとしたのはエクストリームユーザーへのインタビューなどから糸口を見出した、過去の延長線上に乗らない新たな取組みでした。それを既存事業を判断する目で理解しようとするのは、極端に言うと体重計で身長を測ろうとするようなもので、難しいですよね。


若原:
確かにそうだね。僕らは実現したい世界をどうにかして社内に伝えたく、この取組みの事業化を想定した仮想カタログや仮想PVまで作ってプレゼンする、など様々試みてはいた。でも、そもそもまず、この手の取り組みは既存事業と同じプロセス・基準で評価してはうまくいかないこともある、と目線を合わせたうえで、判断のタイミングやその仕方など、進め方自体についてもっと議論があっても良かったのかもしれないね。


2. 目指すゴールの合意形成で疲れる

→10を目指したくともステップ感をもち、まず実現したい2で合意する

横手:
社内で企画を説明すると、「これは今どういう顧客が欲しがるものなのか」「(今の)顧客はそんな事をしないのではないか、むしろこういう点を気にされてしまうのではないか」「やろうとしている事が広すぎる、価値の芯はどこなのか」というような事をよく言われていましたよね。やろうとしていたことは、「新しい」ターゲットに、「新しい」価値を、「新しい」届け方で、だったのですが、そこまでの飛躍にチャレンジすることを共通認識にできていなかったという事かなと思います。


若原:
今もう欲しがられていること(=既存市場の顕在ニーズ)に応えたいのか、こちらから提案してこれから気づかせたい(=市場を創出しニーズを顕在化させたい)のか、という目線がそもそも合ってないまま議論をしていた場面も多かったように思うな。どっちがいい、悪いではもちろんないんだけど、前提がずれているから、そりゃ合意も難しいよね。でも当時はそれがなかなかわからなかった。


横手:
「兆しが見える」レベルのこれからのニーズに対して価値を打つ取組みとして、ターゲットも、価値も、届け方も全部新しくするというのは、やろうとしたことが大きすぎたのかな、と今は思います。すべて同時に実現・リリースしたいと思っていましたが、そういうわけにはなかなか行かないものなのですね。最終的なゴールはターゲット、価値、届け方を全て新しくすることだとしても、その3つのうちどこが比較的早く顕在化しそうか、どこが社内で比較的合意を得やすそうかを読んで、まずその1/3だけでも実現してしまう、というステップ感を、最初からもっと意識できても良かったのかなと。

チームとして一緒にやっていくメンバーとは、大きなビジョンを当然共有すべきだと思うのですが、どちらかというと説得対象となる相手に対しては、大きなビジョンを一気に理解してもらうことは現実的には難しいのかもしれません。上述したようなステップ感を最初から意識して計画を立てたり、取組む優先度を設定できていたら、もう少し迷いも苦労もなく進められたのではないかなと思います。


対談風景

3. 社内の巻き込みに疲れる

→社内はどこまで巻き込むのか、あるいは社外リソースを使うのかをすみわける

若原:
僕らだけじゃできないことを進めるために、理解してもらうことに加え、社内を巻き込んで協働する、ということではどうだった?たとえば営業メンバーは、前向きに話を聞いてくれて顧客視点での意見をくれたり、顧客ヒアリングをアレンジしてくれたり、いろいろ助けてもらったことが多かった印象。


横手:
空間のパターン化は、設計メンバーと毎週議論を重ねて一緒に作り上げて行ったのですが、先端顧客を多数担当している設計者が参加してくれたので、たくさんのヒントをもらいながらいい議論ができましたし、結果として質が高まったと思います。一方で、家具企画の段階に入ってからは、そもそもメンバーをアサインしてもらうのが難しかったですし、メンバーが決まってからも、根本のインサイトの部分を理解してもらいにくかった印象があります。


若原:
家具企画のメンバーは、アサインされた家具企画にその1年専念する事になるよね。だから、既存カテゴリの企画ではなく、こういう海のものとも山のものともわからない企画にコミットしづらい気持ちは、わかる気がする。営業や設計メンバーのほうが理解があって、家具企画のメンバーに理解がない、とかそういう短絡的な話じゃないよね。


横手:
確かにそれはありそうですね。営業や設計の視点でいうと、提案できるネタが増えるのは単純にいい事だし、それに対して意見を述べたり一緒に作業することを日常業務とは分けて比較的やりやすい立場なので、前向きに見てもらえたのかなと思います。一方で家具の開発は、私も携わってみて分かったのですが、企画・開発のサイクルが決まっていて、企画・開発部隊で考えている企画だけで毎年手いっぱいなのです。そんな中でイレギュラーに家具を企画したいと新規事業視点でお願いしても、難しくて当然だったなと思います。


若原:
各々の現業やその中での目標もある中で、みんな同じように強くコミットしてもらうのは現実的には難しいのかもしれないよね。企画が多少あやふやでも仲間として一緒に考えてもらえそうなケース、一緒に考えてもらうのは難しそうだけど、ある程度整理できた企画を説明すれば納得してもらえそうなケース、無理やり協働を求めるよりも、自前主義にこだわらず割り切って社外にリソースを求めたほうが話が早そうなケース、等々のすみわけをもっと意識できたほうが良かったのかもしれない。


4. プロジェクトの管轄変更やリーダーの異動に疲れる

→一番守りたい価値を明確に、それ以外はある程度柔軟に考える

横手:
プロジェクトリーダーの若原さんの異動(注:若原はプロジェクト3年目時点での人事異動にてこの取組みから離脱)は大事件でしたね。管轄してくれる経営層も2度変わっているので、都度気持ちの立て直しと、やろうとしている事の再整理に、気力を奪われていった感じは正直ありました。


若原:
志半ばで異動となったのは、もう本当に辛かったな、、、とはいえ今となって冷静に考えれば、自分で事業を興すのではなく、大きな組織の中の一部として活動している以上、組織の変更や人の異動の可能性はゼロじゃないし、ひとたび起これば避けられないものだしね。実働部隊としては、ここはある程度割りきりがいるのかもしれないね。


横手:
5年も経てば組織も変わりますよね(笑)。組織変更や人事異動の一時の混乱を乗り越えればまた前に進めますし、ポジティブに捉えればプロジェクトを見直す良い機会にもなると思います。実際に私達も、新しい経営体制の全体構想の中で、このプロジェクトをどう位置づけるのか、新しいプロジェクト責任者がどの部分に一番価値を感じてくれるのか、を意識しながら組み立てなおしをしていく中で、守りたい部分が明確になっていったという事もありました。

ただ一方で、これだけ体制が変わると、何を目指していたのかもはや誰にもわからなくなってしまうリスクや、誰も責任を持たなくなってしまうリスクもあったと思います。守りたい価値を常に明確にしておく事と、ここに合意が得られなければあきらめようという基準を、担当者としても持っておく必要もあるかなと思いました。


対談風景

5. 社内カニバリゼーションに疲れる

→これも、一番守りたい価値を明確に、それ以外はある程度柔軟に考える

若原:
社内に、似たような他の取組みがいくつかあったよね。全部同じわけじゃないんだけど、わかりやすい部分が似ていたりすると「こっちが先にやってたんだから」的な話にもなりかねない。こういう調整も難しかったな。社内での切磋琢磨というか、ポジティブな競争環境が生まれるのはいいことだと思うけど、社内で変に競合してギスギスしちゃうのは、百害あって一利なしだな。


横手:
大きな組織である程度の自由度を持って活動していると、近しい未来を見据えた人が似たような取り組みを始めることも少なくないですよね。そういう取り組みはアンオフィシャルに始まることも多いので、お互いその存在に気づいたら結構進んでいてどちらも後に引けない、というケースもあると思います。

若原さんを始め上の方たちで調整してくださって、結果すみわけたり、統合したりしましたが、統合というのは悩ましい面もあると思いました。やはり完全に一緒なものではないので、統合して価値が高まる事もあれば、ねじれが生まれて価値が弱まる事もあると思うのです。違うものをくっつけているように見えないようにする為に、結構な工数を使った記憶があります。


若原:
これも一つ前のポイントとかぶるけど、企業内起業的な動きにおいては、実働部隊の努力だけではどうにもならない社内力学があって、それが自分達にとって良くない流れを生み出すこともありうるんだよね。なので、当初のビジョンに変に詳細までこだわりすぎず、捨てられるところと、どうしても守りたいところと柔軟に持つほうが、必要以上に落ち込むことは避けられていいかもしれない(笑)。どうしても貫きたかったら、ホントに起業するという選択肢もあるわけだし。


対談風景

最後に

若原:
既存事業を大きく抱える企業の中での新規事業・イノベーションへの取組みに関して、そもそも経営論・組織論としてどうするべきか、ではなく、あくまで環境はどうあれ取組むことになった現場視点での考察、つまりイノベーション疲れをできるだけ避けつつ、自分たちのやりたいことをできるだけ実現するには、という考察を、自分たちの経験ベースで今回振り返ってみましたが、あらためてどうだった?


横手:
はい。仮に疲れたとしても、やはり新しい価値を世に出すという事はやりがいがあるし、楽しい事で、その機会をいただけるのは恵まれた事だと思います。収益源である既存事業があってこその新規事業なので、新規事業担当者は既存事業の力学を誰よりも理解した上で、社内と議論しなくてはならないですし、どこまでを、いつどうやるのかを会社視点で最適に考えて行かなくてはならないという事を学びました。もちろん、新しい価値を作らなければならないので、既存力学に寄りすぎてはいけないのですが、会社の期待するスケール感、スピード感とよくよくすり合わせながら進める事が、イノベーション疲れを避ける事につながるのかなと思いました。


若原:
企業の中での新規事業は、自分で起業するときに抱えるようなリスクはある程度回避しながら取り組める面もあるけど、自分ではどうしようもない社内力学に縛られるという別のリスクもある。ビジョンの実現には割り切りも必要だという事だね。新規事業に携わっている人って、既存事業側がどうしてもわかってくれない、みたいな思考に陥りがちだと思うけど、社内の巻き込み、説得に関しては大企業の中ならではのやり方があって、価値観や前提が大きく異なる中での議論がどうしても多くなることは理解しておくべきかもね。


横手:
そうですね。最近自分の周りで新しい取り組みに携わるようになった人がすごくワクワクしていたりすると、どうかいつまでも楽しく取り組んで欲しいなと思ったりしてしまうのですが、、企業の中での新規事業の進め方って、その会社独自のものがあったり、人生で何度も経験できるもので無かったりと、ノウハウがたまりにくい部分なのかなと思います。今回の私達の経験談を1つの参考にしていただき、より疲れず、より楽しく、イノベーションにチャレンジできる人が増えたらいいなと思います。


本研究にかかわった人

Profile

若原 強
前ワークスタイル研究所 所長

横手 綾美
コクヨ(株)ファニチャー事業本部 ものづくり本部 コミュニケーション空間VT 兼 WS研究所客員研究員
東京理科大学工学部建築学科を卒業後、2004年コクヨ(株)に入社。ワークスタイルコンサルタント、ワークプレイス設計者としてオフィス構築案件を多数担当。2013年より行動観察プロジェクトに参画し、コクヨ内にて複数のプロジェクトを行う。直近では本記事記載のリサーチから生まれることとなる「DAYS OFFICE Planning App.」の企画、開発、運用を手がける。

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