なんか変化ワークスタイルけんきゅうしょ

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オフィスの在り方が変わっていく中で、
オフィス家具メーカーは必要とされ続けるか(中編)

第2話 
『「らしい」オフィスを自分達で考える』を実現するために

第1話あらすじ

新しい世代の経営者やワーカーをリサーチして見えてきた「現社員/社員候補、既存顧客/見込顧客、等々から共感を生む自分たちらしいオフィスを、自分たちの手で作り上げたい」というニーズ。少品種大量生産を是としてきたオフィス家具メーカーが、このニーズにどう応えていき得るのか? 当研究所所長 若原が率いていた新商材開発チームのチャレンジが始まりました。

オフィスづくりにおけるマスカスタマイゼーション

「自分たちらしいオフィスを自分たちで考える」というオフィスづくりを現実的に成り立たせるには、ユーザー側にもメーカー側にも課題がありました。

ユーザー側の課題

知識・スキル面:ゼロからセンス良く空間を設えたり、働きやすく運用もしやすい空間に設計することが、専門家ではないので難しい
コスト:自分たちらしさを突き詰めていくと、結局高額なオフィスになってしまう

メーカー側の課題

収益面:ユーザー側の要望をうのみにするとフルオーダーメイドでのオフィスづくりとなり、手間がかかるも儲からない

つまり、自分たちらしく、かつ働きやすく運用もしやすいオフィスを、コストを抑えながら、かつユーザー側の知識・スキルを補って自分たちで考えられるように、しかもメーカーにとっては収益性を保ちながら提供できるような仕組みがなければこのオフィスづくりは成り立ちません。そんな都合のいいことが実現できるのでしょうか?

実は世の中には、このいわゆるマスカスタマイゼーション(=顧客の要望に合わせたカスタマイズ製品を大量生産品と同等の効率・コストで提供すること)を、「モジュール分割とパターン化」という考え方で実現しようとしている例がいくつかありました。古くからあるものだと、スーツのパターンオーダーはそのようにも捉えられますし、最近ではスニーカーのカスタマイズなどは代表的な例と言えるでしょう。加えて空間でも、たとえば住空間では完全な注文住宅でもなく、完全な建売住宅でもない、住宅のパターンオーダーというものも存在しています。

この「モジュール分割とパターン化」という方向性で、オフィスづくりもマスカスタマイゼーションできないのか?それをユーザーが簡単にオーダーできる仕組みを実現できないのか?下記図表のポジションを事業として実現すべく、チームの試行錯誤が始まりました。


<今回の取組みで狙ったポジション>

今回の取組みで狙ったポジション



マスカスタマイゼーション検討の流れ

マスカスタマイゼーション検討の流れ

① 対象オフィスを絞る

オフィス空間はモジュール分割/パターン化できるか

ユーザーが欲しいオフィスを自分で考えられ、メーカー側も収益性を担保できる形として、オフィスのマスカスタマイゼーションを考えた私達ですが、オフィスのモジュール分割/パターン化には工夫が必要でした。

モジュール分割/パターン化するにあたり、オフィス空間は最もバリエーションが多いものの1つではないかと思います。例えばスニーカーであれば、サイズを選びパーツの色や素材を選ぶ。住宅であれば2LDK、3LDKなどある程度決まった型があり、床・壁・キッチン・バスなどの要素を選ぶ事でカスタマイズできたと思えると思います。

しかしオフィスの場合はどうでしょうか。オフィスは数人規模から数千人規模のものまで存在し、1フロアで完結する事もあれば複数フロアにまたがる事もあります。各フロアに置かれる機能も会社によってまちまちです。私達は何を基準とするのか、出発点から考える必要がありました。

またこれは余談ですが、コクヨのオフィス設計には「100社100様」という精神が流れており、それぞれ異なる会社のビジョンや経営課題から最適なオフィスを1つ1つ考える事を大切にしていました。そんな背景もあり、オフィスのモジュール分割/パターン化は私達自身の思考の転換も図らなければならない難しい作業となりました。


ターゲットユーザーが求めるオフィスを考え、それをパターン化する

今回のターゲットである「らしいオフィスを自分達で考えたい」ユーザーが求めるオフィスにはある程度型があると感じていました。それはオフィスを働くためだけの場ではなく、生活の一部を過ごす場ととらえている点であったり、素材感や光、植物など感性に合うものに囲まれていたいというこだわりであったり。

世の中のすべてのオフィスを網羅的にモジュール分割/パターン化するのではなく、ターゲットユーザーが求めるオフィスを考えていくことで解像度の高いモジュール分割/パターン化ができると思いました。

そこで、私達はインタビューから見えたユーザーの価値観や、行動、感情をもとに、彼らがイメージしているオフィスを設計しそれを原型とすることにしました。このワークはその後のモジュール分割/パターン化を見据え、コクヨの家具設計者、空間設計者、外部の建築家と様々なスケールの視点を取り入れて進めました。

はじめは「多様なものを許容するオフィス」「変化があり刺激があるオフィス」などのように抽象度の高かったオフィス像ですが、空間イメージを収集しポイントとなる要素を抽出する等を繰り返し徐々に具体化していきました。すると共通項はあるものの、一つのオフィス空間にまとめるには無理があるイメージのばらけがあることがわかり、最終的に3人のペルソナが求める3つのオフィス像へとまとめる事で、個性の異なる3つのオフィス像を導きだしました。

<3つのオフィス像>
A : 最新の物や情報に、手軽にアップデートしながら働く
B : 自分のお気に入りを大事にし、お気に入りの場で働く
C : 場所や物、時間に縛られず、自由に働く


オフィス画像



② モジュールの最小単位を決める

カスタマイズに最適な単位とは

こうしてモジュール分割/パターン化の原型となるオフィス像が3つ出来上がりましたが、カスタマイズするためにはどの単位(=モジュール)に分割しておくのがよいのでしょうか。

面積の広いオフィスの場合、並べる家具や要素の数は住宅等と比べてもけた違いに多くなります。細かな単位に分解してしまうと、ただ要素を選び並べるだけでも大変ですし、ただ並べただけでは殺風景になったり、詰込み過ぎたりといった問題が起こります。大きな空間を魅力的に使い勝手よくレイアウトするには意外とコツが必要なのです。


ブロック‐ユニット という概念の確立 ※特許出願中

家具単位でレイアウトしていく事は困難であるという事には確信がありました。そこで家具を組み合わせて生まれる1つのシーン、「打合せセット」「カフェセット」などをモジュールの最小単位とし、それを「ユニット」と呼ぶ事にしました。「ユニット」内はユニットどうしを並べるだけで家具が最適な距離感で並ぶようにレイアウトされています。

また、ユニットのサイズは3m×3mとしており、建築モジュールの3.2mや3.6mとあえてずらしています。これはオフィスの一人当たり面積が平均約8㎡というところから、デスクや会議室等必要な要素が平均面積内に収まり、かつ家具間の距離が過ごしやすい最適な状態になるように独自に編み出しています。

しかし、「ユニット」でさえ、これを並べて欲しい過ごし方を手に入れる事は難しいのではないかと考えました。パターン化の原型となるオフィスには、「チームがアトリエのように使える執務エリア」「外部の人と仲間になれる土間のような来客エリア」等がありました。ユニットを並べて、このような空間を作っていくにはスキルが必要です。

そこで私達はもう1階層上のレイヤーにも単位を設ける事としました。3つの原型オフィスを執務エリア、来客エリア等の4つのゾーンに分解しました。そして、それぞれのゾーンに対して3人のペルソナが望む過ごし方ができる空間を設計し、それを「ブロック」と呼ぶ事としました。「ブロック」は「ユニット」の組み合わせでできています。

設計者がオフィスを設計する際に考える「ゾーニング」と「家具」の間に「ブロック」「ユニット」という2段階の単位を設ける事でマスカスタマイゼーションを成り立たせる構造が出来上がりました。


<オフィスを複数の階層で単位化>

オフィスを複数の階層で単位化の図版



③ カスタマイズの自由度を設定する

カスタマイズの自由度と空間の完成度のバランス

オフィスのパターンメイドを考えるにあたり、カスタマイズの自由度の設定は最も大事なポイントだと感じていました。ユーザーが満足できる自由度は必要ですが、自由度をあげすぎると面倒さが増しますし、プランの完成度は保証できません。逆に自由度が低すぎると、プランの完成度は高まりますが、カスタマイズ欲求への満足度はさがります。どちらに偏っても、ユーザーが欲しい「らしさ」を感じるオフィスはできません。

メーカー側から見ても高い自由度に対応するには、用意する商材の数を増やさねばならず、立ち上げの難易度が上がり、収益性の確保も難しくなります。

複数の階層で空間をパターン化する「ブロック」「ユニット」の考え方を取り入れた事で、ユーザーはまず、大まかに各エリアでどう過ごしたいのか「ブロック」単位で選び、次に「ユニット」単位で細かく入れ替える事ができるようになりました。「ブロック」で魅力的な空間を担保しつつ、「ユニット」でパズルを入れ替えるようにカスタマイズを楽しみ、自分達らしいと感じるオフィスを組み立てていけるのです。

メーカーにとっても提供可能なパターン数で、高いユーザー満足を得る事ができます。
ブロック&ユニットという概念は今回のプロジェクトにおいて、ブレイクスルーの一つとなりました。


④ ユーザーに権限を委譲する仕組みを構築

ユーザーのそばに寄り添うような立ち位置に

今回のもう一つの大きな変革は、プランニングの主体をユーザー側に移管するという点です。ターゲットユーザーは、「オフィスを自分達で考えたい人たち」です。そのため、ユーザーとの接点の持ち方をどうデザインするかはとても重要でした。

オフィスを検討しようと思い立った時、すぐそばに寄り添え、ユーザー自身が思考を組み立てていく手助けができるような立ち位置である必要があると思いました。
そのためには、メーカー側に声をかけていただける前に接点を持つ必要があります。

また、ユーザー自身が思考を組み立てていくためには、2Dだけでなく3Dでイメージを組み立てていける事、金額も同時に把握できるが必須条件でした。
空間を考えるツールというと、通常はCADのような専門的なソフトになりますが、私達はユーザー像のイメージからも、楽しく手軽に取り組めるゲームに近いものとしたいと考えていました。

メーカー視点では、カスタマイズパーツの追加更新のしやすさ、ユーザーが作成したプランのマーケティング視点での利用といった運用面も重要です。
2つの視点での必要性を満たせる形として、最終的に、無料で使えるWEBアプリケーションでカスタマイズの仕組みを構築する方針を固めました。


<WEBアプリでのプランニングの流れ>

WEBアプリでのプランニングの流れの図版

メーカーメリットとユーザーメリットがどうバランスしたか

上述したオフィスにおけるモジュール分割/パターン化の整理、およびそのユーザー接点のWEBアプリ化によって、「らしいオフィスを自分達で考えたい」ユーザーが、自分の頭の中にあるイメージを具現化し楽しみながらオフィスレイアウトを考えることを実現できるめどが立ちました。これは、これまで設計者に頼むか、自分で手書きなどするかの2択であったオフィス設計への新しい選択肢となるものであり、コクヨにとっては社内業務を効率化し、営業スタイルをPUSHからPULLへ切り替える挑戦ができるものにもなるのです。

メーカーメリット

・打合せや、図面/見積の作成等、提案業務を効率化できる
・これまで接点の持てなかった顧客へ直接PRできる
・PULL型での受注を可能にする

通常オフィス設計の流れは、まず顧客の要望を聞きに行き、社内に持ち帰り図面を作成し、約1週間後に提案に伺うというように始まります。イメージと違う点があれば持ち帰り、図面を修正し再度提案するという行為を繰り返します。ある程度プランが固まった時点で3Dパースや見積もりを作成し持っていき、またイメージと違えば修正するといったように、基本プランが固まるまで平均2か月この作業を繰り返します。

デモ機を使ったトライアルでは、このアプリを使う事で、1度の打合せで顧客イメージを2D・3Dで確認でき、かつ予算内に収まるかどうかも確認でき、提案業務の効率化につながる事がわかりました。また、このアプリからはレイアウトされた家具リストが書き出せ、レイアウトをそのままAutoCADで再現させる仕組みも取り入れたため、見積作成工数、図面作成工数の削減も見込めました。

また、これまで接点の持てなかった顧客に直接アピールできるというメリットも持っています。顧客がまず先にレイアウトを検討し、イメージが完成したら、コクヨに声掛けいただくという、PULL型での受注が可能になるという点は、コクヨにとってビジネスモデルを大きく変えることの出来る挑戦でした。

ユーザーメリット

・オフィス構築に「自分で考える」という新たな選択肢が増える
・イメージを具現化しながら打合せができ、コミュニケーションがスムーズになる
・3Dや価格を確認しながら検討する事で、プランへの納得感や満足度が高くなる

ユーザーサイドから見ても、すでに頭にイメージがあるのに、それをすり合わせる打合せを2か月も繰り返さなくてよくなるのはメリットです。デモ機を使ったトライアルではユーザーとメーカーの間の意思疎通のためのツールとしても評価されました。

また、価格とプランを常に確認しながら検討が進められるので、通常のプロセスよりも納得感があるという効果も見込めました。

最近では、働き方改革プロジェクトなどで、総務担当者だけでなく、各部門からのメンバーでチームを組んでオフィスを考えるというケースも増えています。そういったケースでは、図面など2Dの情報共有では参加メンバーそれぞれが頭に描くイメージが異なってしまい検討がスムーズに進まないという課題があります。このアプリを使う事で、メンバー感のイメージのすり合わせしやすかったとの声もいただき、頭の中のイメージを具現化するアプリから幅を広げ、コミュニケーションツールとしてのアプリという位置づけができていきました。

次はいよいよ企画の上申、社内調整。しかし…

以上、企画は固まりました。ここでは割愛していますが、提案の効率化度合やコスト感の試算も整い、いよいよ社内で企画を上申し、人を巻き込んでいくフェーズとなっていきます。が、ここで大企業での新規取組界隈名物、「イノベーション疲れ」にチームが襲われ続けることとなるのです。ここをどう乗り越え、初受注にこぎつけたのか。最終話をお楽しみに!

本研究にかかわった人

Profile

若原 強
ワークスタイル研究所 所長

横手 綾美
コクヨ(株)ファニチャー事業本部 ものづくり本部 コミュニケーション空間VT 兼 WS研究所客員研究員
東京理科大学工学部建築学科を卒業後、2004年コクヨ(株)に入社。ワークスタイルコンサルタント、ワークプレイス設計者としてオフィス構築案件を多数担当。2013年より行動観察プロジェクトに参画し、コクヨ内にて複数のプロジェクトを行う。直近では本記事記載のリサーチから生まれることとなる「DAYS OFFICE Planning App.」の企画、開発、運用を手がける。

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