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海外リサーチ:オープンイノベーション実践のヒント

1オープンイノベーションで注目すべき国は?

最近のイノベーションのトレンドとして「オープンイノベーション」が挙げられますが、日本ではまだ成功事例が少なく、その解釈も人によって異なります。自社技術をオープンにして外部からアイディアを集めたり、アクセラレートプログラムを行う企業も増えていますが、オープンにすることに伴うマネジメントの難しさもあります。では、なぜオープンにすることが求められているのでしょうか。

オープンにするのは技術ばかりではありません。アイディアやリソース、知財や関係性も含まれます。その背景は大きく2つあります。1つはデジタル社会、シェアリングエコノミーによって、これまで一部の人しか得ることができなかった情報が、誰でも得られるようになったことで情報の非対称性がなくなったこと。もう1つは、既存ビジネスの陳腐化と、消費者や社会の価値観の変化です。一言でいえば、企業が売りたいものをマスプロダクトでつくる時代ではなくなったということです。

今、世界の人口は増える一方で、先進国では高齢化や人口縮小社会の到来、地球規模の環境問題が起きています。企業の殻に閉じこもっていては、これらの課題を乗り越えられるビジネスモデルを生み出すことが困難になってきているといえます。

イノベーションといえばシリコンバレーが有名ですが、社会課題を解決するために官民連携で進められているオープンイノベーションやリビングラボ等の取組みで注目されているのが、シンガポールや北欧諸国です。本レポートでは、イノベーション立国として注目されているスウェーデン、デンマーク、シンガポールのオープンイノベーションの場を実際に訪問し、その目的やしくみ、アウトカムなどを比較しながら、日本におけるオープンイノベーションの可能性を探ります。尚、本調査はオープンイノベーションを推進する一般社団法人フューチャーセンター・アライアンス・ジャパン(以下FCAJ)のメンバーとの協働で行いました。

コペンハーゲン市に2018年5月にオープンした都市のイノベーション拠点 BLOX HUB コペンハーゲン市に2018年5月にオープンした都市のイノベーション拠点 BLOX HUB

コペンハーゲン市に2018年5月にオープンした都市のイノベーション拠点 BLOX HUB



2オープンイノベーションの場のモデル

筆者は2008年から10年にわたりイノベーションの場について調査研究を行ってきました。FCAJは企業、官公庁、大学、NPOなど、約80の組織からなるオープンイノベーションのプラットフォームですが、それぞれが共創のための場を運営しています。「場」とは、知識経営理論の第一人者である野中郁次郎氏が提唱している知識創造のメカニズムであり、単なる物理的空間ではありません。イノベーションの場には3つの特性があります。


  • ① アイディアをカタチにして試す、身体性を伴う物理空間としての場
  • ② さまざまな知識が生成・蓄積・編集される、情報空間としての場
  • ③ 人と人が対話を通して新しい観点を発見する、共創空間としての場

多種多様なバックグラウンドを持つ人々のコラボレーションが不可欠なイノベーションにおいて、新しい関係性を構築していく「場」は極めて重要です。未来志向の対話の場として知られているフューチャーセンターを世界で初めて立ち上げたのは、スウェーデンの知的資本経営の研究者のレイフ・エドビンソン氏です。彼は「イノベーションには未来の一部を取り込むことが重要だ」と述べています。また、海外のフューチャーセンターでは前述した「場」の概念や禅の思想などが取り入れられています。「場」は日本発の概念であり、日本人はイノベーションが苦手だと思いがちですが、実は文化的に向いているのではないかとも考えられます。

3規模や地域特性による国別比較

それでは、具体的な事例から、それぞれの国を比較してイノベーションの型の特徴をつかんでみたいと思います。今回は前述したようにシリコンバレー型のイノベーションではなく、地域性のある社会課題を出発点としたオープンイノベーションに焦点を当てています。

デンマークは国家レベルでフューチャーセンターを積極的に取り入れてきた国のひとつです。2002年に3つの省庁が合同で「マインドラボ」というフューチャーセンターを立ち上げ、官民連携によるイノベーションを実践してきました。移民や労働環境、環境問題など、社会性の高いテーマに取組み、国内外から評価されてきました。今はその役割を終えてマインドラボは省庁に吸収されましたが、2018年5月には新たに都市のイノベーションをテーマとした「BLOX HUB」がオープンしました。マインドラボは官がオーナーシップを持つ場でしたが、BLOX HUBはコペンハーゲン市と国と民間組織が共同運営する、民がオーナーシップを持つ場です。コペンハーゲン市の中心部にあり、市民の憩いの場として公園や運河に囲まれ、カフェやギャラリー、イベントスペース、デモスペース、ラーニングスタジオ、コワーキングスペース、住居など、多様な要素がブロックのように集積しています。

また、この20年で、リビングラボというオープンイノベーションの新たな手法も生まれています。リビングラボで有名なのはスウェーデンとシンガポールです。スウェーデンは先に述べたようにフューチャーセンターが生まれた国であり、知的資本を活かした国づくりを行うイノベーション立国です。幼少期から自律性・主体性・創造性を引き出す教育が行われ、学ぶこと、働くこと、生活することが互いに融合したライフスタイルが尊重されています。クオリティ・オブ・ライフへの関心も高く、また国民がイノベーションにも積極的です。

シンガポールは急成長をしている東南アジアのイノベーション拠点として、国家戦略の中にリビングラボを位置づけています。シンガポール大学と政府が協働するスタートアップ拠点、BLOCK 71は、年々その規模を拡大していますが、その背景にはベンチャー育成のプログラムや、スタートアップの段階に応じたサポートが受けられるしくみとネットワークがあります。また、スマートシティ構想を実現するために、リアルな都市空間のなかで社会実験を行うしくみ=リビングラボを政府が主導し、世界中のアーリーアダプターを引き寄せています。小さな国家であるためスピードも速く、自動運転などの実装もシンガポールやシリコンバレーで進むとみられています。


国家規模と地域によるイノベーションの資源や方向性の比較表

国家規模と地域によるイノベーションの資源や方向性の比較
(注:具体的な場の訪問時に得た内容であり全てを網羅している訳ではありません)


このように、国家規模と地域性、その国が持つ文化や特徴によって、オープンイノベーションのモデルは変わってきます。国家規模が小さい国はスピードが速く、国外の資源を常に取り込むしくみと、都市そのものを実験空間とするリビングラボに積極的に取り組んでいます。国家規模が大きい国は大企業をたくさん抱えているため、人材や知識の流動性を高めていくことが有効です。そして、スタートアップ精神など教育システムのイノベーションも欠かせません。いずれも、その地域資産を活かしたイノベーションのあり方を考えていくことが重要でしょう。



シンガポールのスタートアップ拠点 BLOCK 71のカオスのようなカフェテリア シンガポールのスタートアップ拠点 BLOCK 71のワークスペース

シンガポールのスタートアップ拠点 BLOCK 71のカオスのようなカフェテリアとワークスペース

4日本のオープンイノベーションの現場と課題

FCAJが国内のビジネスパーソン向けに行った調査によれば、自社がイノベーションに取り組んでいると回答した人は約6割、オープンイノベーションに取り組んでいると回答した人は全体の25%でした(2016年調査)。イノベーションに取り組む企業は年々増え、オープンイノベーションを志向する企業も増えていることがうかがえます。また、イノベーションとワークスタイル改革の相関についての調査を行ったところ、イノベーションに積極的に取り組んでいる企業は、ワークスタイル改革はイノベーションに効果があると答えています。

日本はイノベーションとワークスタイル改革を分けて考えがちですが、ビジネスだけではなく社会的かつ持続的なイノベーションに成功している国の共通点は、働く人の幸福度や働き方に関する満足度が高いことです。前述してきたシンガポール、デンマーク、スウェーデンは、これらの国際ランキングでいずれも10位以内にランクインしていますが、日本の幸福度は54位と低いのが現状です。働く人の幸福度が創造性や生産性によい影響を及ぼすことも、ポジティブ心理学等では指摘されています。そして、社会課題をテーマとするオープンイノベーションの場合は、個人の問題意識、オープンマインドと信頼関係、社会への深い洞察力などが欠かせません。

そして、日本の終身雇用のシステムも、イノベーションを阻害する要因の一つであることが指摘されています。イノベーションには多様性と、破壊と創造のプロセスが不可欠ですが、固定化された組織や関係性の中では、どうしても新しい発想とプロセスが生まれにくいという構造上の問題があります。最近、国家公務員の副業解禁が話題になりましたが、複数の組織や立場を兼任することは、新しい発想や関係性を生み出す上で有効です。

さまざまな課題を乗り越えてイノベーションを実践していくために、海外のオープンイノベーションの場で活動する人たちのヒアリングから得たヒントを基に、日本の課題と掛け合わせて考察した3つのポイントを最後に紹介します。

5個人を起点としたオープンイノベーションに取り組むための3つのポイント

日本はアジアの東端にありながら、年々、観光に訪れる外国人も増え、独自のコンテンツを持つ国です。そして、イノベーションへの関心も高まっており、場という文化的なコンテキストも機能し始めています。イノベーションは経営者の重要な仕事ですが、個々のイノベーションには個人の熱い思いや、未来に対する構想力がなければ始まらず、かつ個人の能力と裁量が不可欠です。イノベーションに必要なのは、その起点となる個人のアティチュードであると指摘する人が増えていますが、アティチュードはモチベーションとは異なり、意欲だけではなく思考や哲学などの知識や技術を伴います。以下、3つのポイントにまとめます。

① 個人のなかにダイバーシティを持つこと

組織の枠にとらわれると融通の利かない人、既存の仕事の中でしか活躍できない人になりがちです。15%ルールのような課外活動や社会的活動への参加、異なる職種を経験することで価値観が広がり、他者との協業を進めやすくします。



② 生活者としてのアンテナを張ること

会社員の視点では未来の生活のなかで何が求められるかが見えず、時には会社という殻を破る瞬間が必要です。大企業とは対極的な外部のクリエイターやアクセラレーターと日常的に交流できる場や、生活のなかで問題意識を持つようにします。



③ 選択肢をつくり自己決定をしていくこと

仕事の中でオプションやオルタナティブを発想するようにします。自分事としての自律性と自己決定力が必須で、それらの基準となる価値観の醸成と、自分を成長させてくれるコミュニティとの相互関係を築いていきます。

個人を起点にすることと、個人主義は異なります。今、世界のイノベーションをリードしているのは、社会的価値の共創や人間のウェルビーイングであり、社会に対しての洞察と関係づくりが重要です。そして、自主性や自己決定などは、北欧では子どもの頃からの教育に織り込まれているので、日本の教育を再考することも必要です。

今、日本の先進企業では、個人を起点とした働き方へとシフトしはじめている動きがあります。前述したようにイノベーションの実現とワークスタイル改革は表裏の関係です。日本の企業組織のなかで職業や仕事を自己決定していくことは難しいですし、米国のように専門職種で転職を続けていくことが、イノベーションにとってよい訳でもありません。個々人が創造性を発揮しながら、お互いに連係、コラボレーションしていくような働き方は日本らしいイノベーションのあり方です。日常の働き方を個人が意識し、企業は裁量と自由と責任を与えていく。企業として新しい機会を社員に与え、実践しながら学んでいくような仕組みが求められているのではないでしょうか。

本研究にかかわった人

齋藤敦子 (調査企画・実施、レポート執筆)
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