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床ポートフォリオ
レポート

「未来のオフィスが担うべき5つの役割レポート」でも述べたように、もはやオフィスじゃなくとも仕事ができる時代になってきています。

自宅(在宅勤務)や電源・WiFiが整ったカフェ、コワーキングスペース等に加え、最近はワークプレイスならぬワークスポットと言えるような、仕事環境がばっちり整った電話ボックス型のブースが街中に置かれ始めたりもしています。もともとデスクワークはオフィスという場でしか起こっていなかったシーンですが、働く場の選択肢が様々に拡大しつつあることを実感する時代となってきています。

このように、働く場所の選択肢が都市中に広がっていく時代、もしあなたが会社の経営者で、自社のオフィスを構えるとしたらどう考えますか?あなたの会社のオフィスには、依然として社員の人数分の面積と席数が本当に必要でしょうか?「オフィスの必要面積=従業員数×一人当たり面積」という、社員はオフィスで働くことが前提でのオフィス構築の方程式は、今後どうなっていくのでしょうか?


「床ポートフォリオ」の考え方とは?

社員が働きうる「床」がもはやオフィスだけではなくなる中、働く場を捉える新たなフレームが必要となりそうです。そのフレームとして、都市中に拡大する働く「床」を、企業にとって固定的に存在する「床」か、変動的に使える「床」か、という「固定/変動」軸と、会社がそもそも所有する「床」か、所有はしないがそこで社員が働くことを許可する「床」か、という「所有/非所有」という2軸で分類してみました。


図表


オフィスは「固定・所有床」、自宅は「固定・非所有床」、都度利用するカフェなどは「変動・非所有床」、法人契約を前提としたコワーキングスペースは「変動・所有床」ということになります。

この4つの分類の床は、必要となるシーンもバラバラですし、必要となるコストも多様です。固定・所有床であるオフィスは「自社床」、それ以外の3象限は「外部床」としたときに、これら自社床と外部床を目的に応じてバランスして持ちわけ/使い分け、社員の働きやすさとオフィスコストを同時に最適化しながら分散型のワークプレイスを構築していく、ということが、今後考え方として重要性を増していくのではないでしょうか。

この考え方を、金融商品を組み合わせることでリスクを分散させリターンを最大化する「金融ポートフォリオ」になぞらえ、「床ポートフォリオ」と名付けたいと思います。


図表


「床ポートフォリオ」を踏まえた現状と今後の兆し

この床ポートフォリオを踏まえたワークプレイス構築を考えていく前に、この床ポートフォリオ観点でのテレワークの現状を少し整理してみました。

まずは、業種別、職種別のテレワーカーの割合です。業種ではやはりIT系が多く、職種では管理職や営業、研究職が多い、という現況となっています。


図表


興味深いのは、先の4象限に照らし合わせたテレワーカーの構成比です。テレワーカーが働いている場所別の構成比をこの4象限にあてはめてみると、テレワーカーはすでに、それぞれの外部床にある程度均等に分散している様子がわかります(疑似的な当て込みのため、合計は100%にはなっていません)。


図表


ちなみに、当社コクヨも床ポートフォリオの形成という意味ではまだ過渡期でありますが、コクヨが東京都内において、4象限でそれぞれ活用している床の現状をプロットすると以下のようになります。


図表


品川に本社機能を持った拠点があり、霞が関に主要営業拠点があり、渋谷には自社運営のコワーキングスペース(MOV)、他にも法人契約しているコワーキングスペースがあり、社員はこれらの床のどこでも快適な環境で仕事ができる、という状況になっています。


「床ポートフォリオ」を踏まえたワークプレイス構築

では、この床ポートフォリオを考慮したワークプレイス構築について考察を深めてみます。その考察にあたって、以下の3つの問いを設けました。


図表


■問1. 外部床はどんなケースで活用されうるか?

既によく見かけるシーンとしては、冒頭にあがったような、育児・介護の文脈で自宅で働くシーン、外回りの多い営業部隊が喫茶店などを都度利用して働くシーン、業務的に本社に出勤せずともよい日の通勤時間削減のために、自宅の近くの支社・サテライトオフィスに出社して働くシーン等々が挙げられます。

一方、いまはまだ少ないがこれから増えそうなケースとしては

  • ・PJルームを外だしする
     →社内に設けようとすると会議室をつぶさないといけない

  • ・商談拠点やショールームとして一等地のコワーキングを活用する
     →自社施設として構築すると費用が掛かりすぎる

  • ・イノベーションセンターやリビングラボをトライアルする場所として利用する
     →いきなり自社施設としては投資判断がむずかしくとも、一定期間限定でのトライアルであればハードルは下がる

などが考えられます。


図表


■問2. 外部床を活用することで得られるメリットは?

外部床を活用することでのメリットとして、3つ掲げてみました。「オフィスコスト」「時間・利便性」そして「新たな拠点施策」です。コストと時間についてはいくつかのケースでシミュレーションと試算も行っており、その概要と共に見ていきたいと思います。

まず、オフィスコスト面についてです。
固定床と変動床、つまり、オフィスビルに入居してオフィスを作るのと、コワーキングスペース等を借りるのとでは、どちらが安く上がるのでしょうか?


図表


様々なケースを比較したところ、変動床の契約プランをうまく選べば、基本的にはコストを抑えた増床が可能になる、ということが言えます。ちなみに、変動床を契約する場合に定額課金と従量課金がありますが、これはTPOによって適切な契約形態がありそうです。

さらに、将来的な人員変動を見据えた時の変動床のコストメリットも検証してみます。例えば、将来的な人員増加を見据えた時に、「固定床のみであらかじめ広めの床を借りておく」という状況と「人員増加分は変動床を都度調達することで対応していく」という2つのケースをコスト面で比較してみます。


図表


これも想定したケースの大半において、固定床のみの場合、人数が増加するまでは人が埋まらない床に対しムダなコストを払いうることになるため、変動床を利用した場合のほうがコストが抑えられる、という結果が出ています。

オフィスコストに関しては、固定床(の一部)を変動床に置き換えることで、基本的にはオフィスコスト削減につながり、その効果は将来的な人員変動も見据えた時間軸を考慮するとより高まりうる、ということが1つのメリットとして言えそうです。

次に、時間・利便性面についてです。
通勤時を考えたとき、従業員が多く住んでいるエリアのコワーキングが法人契約されていて、本社に出社する必要のない日は近くのコワーキングまで出社して仕事する、というケースを考えたときに、交通費と「可処分時間」というのはどのように変化するのでしょうか?

このケースの試算では、交通費は約7割減、1人当たりの「可処分時間」は1日で約1時間増える、という結果が出ました。


図表


一方で、業務時間内の移動(営業メンバーの外回りなど)を考えたときには、コワーキングをサテライト的に利用することでどのような効果が得られるのでしょうか?訪問先から毎回本社に戻る場合と、近くのコワーキングを中継地点として活用する場合を比較すると、このケースの試算では1日平均で2.5時間の余裕が生まれるという結果が出ました。


図表


時間・利便性面については、場所を適切に選定したコワーキングを活用することで、交通費は大きく削減でき、従業員の可処分時間は相当時間増大する、ということが言えそうです。

最後に、新たな拠点施策面です。
これは、今後の外部床の活用シーンで触れたことと重複しますが、プレステージ感の高いエリアにショールームを構える、イノベーションセンターやリビングラボをトライアルするなど、自社床で実現するにはコストも手間もハードル高い施策に対し、安価に/期間限定で取り組める、というメリットです。

以上、外部床を活用することで得られるメリットをまとめると:


図表


参考までに、下記のようなケースを想定して、従業員の働きやすさは拡大させつつ、オフィスの年間ランニングコストがどのくらい削減できるのかをシミュレーションしてみました。


  • ・社員1,000人の企業
  • ・営業人員数200人、オフィス平均在席率30%
  • ・在宅勤務対象者数50人、オフィス平均在席率15%

結果概要として、すべての社員の働く床を1拠点の自社床でまかなった場合、当然1,000人分の床面積が必要で、それに伴って発生するオフィスコストは年間21.0億円と概算されました。

一方、床ポートフォリオの考え方を適用し、営業部隊は基本的に外部床をサテライト的に使い、在宅勤務対象者は基本的には自宅を拠点として働き、その分自社床の面積を削減していくことを考えてみると、自社床として用意すべきは768人分の床面積となり、それに加えて外部床を借りたとしても、オフィスコストは年間19.4億円と、約8%の減少となりました。
約8%の減少というとそこまで劇的な削減には見えないかもしれませんが、働く場所の自由度は高まりながらのコストダウン、ということを考えると悪くない結果かもしれません。


図表


*本レポートでご紹介したコストや時間のシミュレーションは、諸条件をいったん排除した理想的な状況を想定したものです。その詳細をお知りになりたい方、もしくは自社の現状に応じたシミュレーションに興味のある方は、コクヨの御社担当営業までご連絡ください


■問3. 外部床にワーカーが出ていくばかりでいいのか?

最後の問いです。社員がどんどん外で自由に働くことの弊害、つまりテレワークのデメリットはどのようなところにあるのでしょうか?

まず、すぐに懸念されそうだと思うことを挙げてみます。社員が分散して働き、必ず毎日自社社屋に出社することがなくなる状況で、「労務管理」はどうするのか。仕事の「評価」も難しくなる。「セキュリティ」や「防災」という概念はどうなるのか。

ただ、こういったことには遅かれ早かれソリューションが出てきそうな気がします。一方、もっと本質的な課題が、ワーカーが分散して働くことにはありそうです。

社屋に集まらない機会が増えるということは、社員同士での「打合せ以外」でのコミュニケーションの量が減少します。「打合せ以外」といったのは、「打合せ」に関しては場所、時間、参加者が前もって決まっていれば外部床でも実施可能だからです。

「打合せ以外」のコミュニケーションというのは、いわゆるインフォーマルコミュニケーション、つまりちょっとした雑談や、偶発的に出会った相手と会話すること、もしくは誰かのつぶやきから突発的に発生する議論等々のことを言います。このようなインフォーマルコミュニケーションは、社員が物理的に場を共にする機会の減少に伴って、当然少なくなっていきます。これが減少すると、なにが起こりうるのでしょうか。

一つは、組織の柔軟性が低下していくかもしれません。組織の柔軟性を保つ一つの要素として、「トランザクティブ・メモリー」、つまり、この組織の中で「誰が何を知っているのか」という情報が行きわたっていることが挙げられます。全員同じ知識や技術を持っていなくとも、これはだれが詳しいのか、これはだれが得意なのかさえ知っていれば問題解決の柔軟性とスピードは上がると経営組織学的に言われています。

このトランザクティブ・メモリーは、インフォーマルなコミュニケーションによって組織に浸透するとも言われており、その機会が減っていくと結果として組織の柔軟性も低下していくのではなかろうか、ということが言えます。

もう一つは、組織の創造性も低下していくかもしれません。イノベーションには近接行動が必要である、という話があります。創造的な活動は計画的に起こせるものではないため、アイディアを思いついたときにしかるべきメンバーでクイックにトライアルできる体制は重要です。居場所が分散し、インフォーマルに突発的に意見交換ができない状況が続くと、創造性も低下していくのかもしれません。

加えて、社屋に集まって対面でコミュニケーションすることが減少し、日時の決まったミーティングの時だけ顔を合わせる、という社員同士の希薄な関係性が蔓延していくと、会社に対する社員の帰属意識まで低下することにもつながりかねません。


図表


この、組織の柔軟性低下、組織の創造性低下、そして社員の帰属意識低下、という3つのリスクが、社員が外で自由に働くことの本質的なデメリットと言えるのではないでしょうか。

冒頭にご説明した通り、働く場所の選択肢が街中に拡大していくトレンドはしばらく続くでしょう。その選択肢を自由に選んで働きたい、というワーカーの志向も強まり、つまりオフィスからワーカーが外に出ていく「遠心力」はもはや止められない状況に来ています。

ただ、この遠心力をほったらかしにしておくと、前述したようなリスクが会社に対して発生していきます。そのため、たまには会社に戻ってきて、社員同士対面でコミュニケーションをとろうとワーカーに思わせる「求心力」についても併せて検討することが必要です。それによって組織の柔軟性・創造性と帰属意識を担保できるからです。


図表


この求心力については、せっかくオフィス外で働く選択肢が広がり、自分の働き方にあった働く場選びが進もうとする中で、「毎週〇曜日はオフィスに来て働きましょう」という「ルール」をもって発生させるのは本末転倒です。

例えばグーグルのように、おいしい食事が3食タダで食べられる、というような社食があると、「じゃあ今日のお昼はオフィスに戻って食べるか」と自然な求心力が発生するなど、従業員の生活がより豊かになる要素をオフィスにおいて提供する、という求心力の発生のさせ方のほうが適切ではないでしょうか。

そう考えていくと、床ポートフォリオの中での自社床(センターオフィス)として残る空間の設えは、従来のエントランス、応接エリア、会議エリア、執務エリア、リフレッシュエリア等々のゾーンで区分けされたものの縮小版には、もはやならないのかもしれません。


まとめ

  • 働く場所の選択肢が都市中に分散していくというトレンドを受け、これからのオフィス構築に向けて「床ポートフォリオ」という概念が定義できる
  • 床ポートフォリオという考え方の中で、変動床をうまく活用していくことで、従業員の働きやすさは最大化しながらも、オフィスコストを最小化する、ということが可能になる
  • 一方、ワーカーがオフィスの外に出ていきすぎると、組織の柔軟性や創造性、帰属意識等々組織の力が低下しうるリスクがある
  • これからのオフィス構築においては、オフィスとワーカーのあいだの「遠心力」と「求心力」のバランスをうまく設計していく必要がある
  • その際、自社床に構築される空間は従来型オフィスの縮小版とはならず、新たな考え方が必要となる

今後のオフィス拠点構築においては、下記3点をうまく考慮した全体設計が重要性を増してくると考えられます。

  • ・どのワーカーが、どれだけ、どの床で、働くことになるのか?
  • ・コストの最適化と働きやすさの最適化をどうやってバランスさせるか?
  • ・センターオフィスを既存の概念にとらわれずにどう設えて、遠心力と求心力をバランスさせるか?

本研究にかかわった人

若原強(ワークスタイル研究所 所長)
企画立案、仮説立案・分析、レポート執筆
Jenerate Partners株式会社(http://www.jenerate.co.jp/
床ポートフォリオ仮説に基づいた種々シミュレーションの実施・分析
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